THE WHO “Rock’s Outer Limits” ザ・フー

神奈川県民ホールのチケットは仕事で断念し、売却しましたが、尼崎公演だけはどうしても見たいと思い、GW期間中で非常に割高な料金で、九州より新幹線で新神戸まで行き、阪神電車で尼崎へ到着したのは午後5時前でした。
会場へ着いた早々、2008年のファンサミットでお会いしたSさん達と遭遇、コンビニで一緒に買ったビール1缶を飲み干し、会場入りする。少し緊張していたのかビールは飲み干したものの、何故か全く酔いは回ってこなかった。会場前で更に4年前にお会いした面々と会うことができ、ライブ中に猛然と1列目近くに後列から来て、最後まで陣取り、会場の盛り上げに一役を買っていた女性にトミーバッジまでいただいた。ファンクラブで購入したチケットの席番はロックコンサート生涯初めてで、1列目で右側の方でした。正直1列目には抵抗がありましたが、前に何も障害が無いこと、ギタリストのソロを目の前で何度も見ることができ、さらにロジャーが至近距離で細かい表情だけでなく、時々吐く、とんでもない唾の量まで細かく観察ができ、最前列の特権を十分に堪能することができました、癖になりそうな気もします。一番心配だったのが、会場の雰囲気が分かりにくいのではということでしたが、これについては時々、後ろを振り向き確認することで、あっさりと問題が解決してしまいました。
5時30分開演予定でしたが、10分弱くらい遅れてでしょうか、バンドとロジャーが暗闇の中、登場し、トミー全曲演奏が始まりました。ロジャー黒のパンツに黒のシャツのいでたち、直立不動でいるため、周りにはバンドのメンバーがいて機材があるにも関わらず、これからロックコンサートが始まるような気がしませんでした。バンドメンバーを無視すると、一人芝居が始まるような雰囲気。4年ぶりに見た68歳のロジャーは私の記憶のロジャーと比べても更に小柄に感じた。年齢からすると当然のことだが、細かい皺が増え、相変わらず胸の厚みは半端でないものの全体の筋肉の量は減り、そのことが一回り小柄になった印象を与えていたようです。あまりも動かないため、そこにいるのはロジャーではなく、ロジャーの蝋人形のようでした。この疑問は後で自分なりに解決することになります。
Overture, It's A Boy, 1921, Amazing Journey, Sparks, Eyesight To The Blind, Christmas, Cousin Kevin, The Acid Queen, Do You Think It's Alright?, Fiddle About
トミーの前半。全くMCは入らず、淡々とオリジナルアルバムに沿って、演奏が続いていく。これはフーのコンサートではなく、あくまでもロジャーのソロである。ピートがいないでだけでなく、もちらんザックもいない。そしてピノもラビット、さらにボブ・プリデンもアラン・ローガンもステージ脇にいるにスタッフを覗いてみたがいませんでした。ボブ・プリデンぐらい一緒にきてもいいのにと思ったりしたが、ロジャーのソロとなると勝手にフーのスタッフを使えるわけではないし、今のスタッフで十分仕事ができているのだから、これでいいのかもしれない。これはフーではなく、ロジャーのソロだということは自分自身言い聞かせてきたつもりでしたが、前半はAmazing Journey, Sparksという2003年ツアー以来、アンコール不動のトミーメドレーの中核をなす曲が演奏されると、比較するなというのが無理でした。それでも曲が続き、違う違うとは思いながらも冷静になっていくことはなく、ライブを楽しんでいました。そして次の関門はギターでした。私の場合はキースはもちろんお気に入りですが、ケニージョーンズもサイモンフィリップスもそしてザックも大好きです。ロジャーを尊敬していますが、他にすごいと思うフロントマンもいます。ただしギターだけはピートタウンゼントは別格です。作曲家としてギターアクション、そしてロック界での立ち位置を別にしても、ピートのリズムギターがどれだけ純粋に好きなのか、中毒になっているのかを再確認するほど、ここにいるギタリストは頑張っているけど、当然ながらピートのリズムとサウンドとは違うことに最初は適応ができませんでした。(結局、中盤からは適応できるようになりました。人間何事も慣れですね!)前半のバンドサウンドは突出したものは感じませんでしたが、安定していました。個人的には、Christmasの後ののsee me feel meで早くも少しやばい状態になったので、最後まで平静で見ていられるか不安を感じながら、前半が終わりました。サイモンタウンゼントを除いてすべてアメリカ人を雇ったのも、当初疑問は感じていましたが、この音楽がアメリカで浸透して40年以上経過していますので、本当はイギリス人が良かったのかもしれないが、人材の問題でそれができず、やむなくだったかもしれませんが、トミーはアメリカでミュージカルやマーチングバンドの定番として日常の音楽と化しており、何故不安を感じる要素があるのかアメリカ人のバンドメンバーには理解できないほどなのかもしれません。
トミー後半はPinball Wizard, There's A Doctor, Go To The Mirror, Tommy Can You Hear Me?, Smash The Mirror, Sensation, I'm Free, Miracle Cure, Sally Simpson, Welcome, Tommy's Holiday Camp, We're Not Gonna Take It
Pinball Wizardはフーが演奏するときよりも長尺版になっていた。この曲は他のバンドが持っているとトリとして演奏もできるほどのキラーソングです。かっこよくて、早くて、曲が進むにつれ、もりあがり、ライブ向き。ただしピートが演奏するときはなぜか、あっさり終わりので、時々消化不良になるのですが、今回はそれはなく満足させるでき、そのような何故がその後続出することになります。I'm Free、初めてアルバム聞いたときは特に印象はありませんでしたが、89年のライブ映像で大好きになった曲。途中のメロディが美しすぎます。初めてライブで聴くことができ、曲の良さに改めて納得。ロジャーの低音をきかしたWelcomeを合図に最後のパートに突入します。ロジャーのバンドの演奏は以前に見たミュージカルトミーのバンド演奏とは、やはり違う響きがありました。何故音楽がこれほど人を高揚させ、感動させるのか。2008年のフーのライブでは涙腺攻撃に耐えることができたのに、今回は情けないことにできませんでした。しかも前列にいた他の客とともにロジャーにしっかり見られてしまい、勝ち誇ったような表情を見せることに協力してしまったことが、悔しくて仕方がありませんでした。(笑)
トミーは今後もミュージカルでロックのライブでマーチングバンドの定番として、これからも生き残っていく作品です。ロジャーは今回のソロでトミーの歌い方の模範を見せてくれたと思う。ロジャーはステージにロックスターとして上がったのではなく、トミーとしてあがっていた。時にはFiddle Aboutでしゃがみこむような姿勢で、アーニーおじさんも演じていた。あの最初ステージに上がったときのぽつんと一人での直立不動はトミー役を演じていたのだから、当然だったのである。1時間あまりのロジャーによる、カウンセリングが終了した後は、休憩なしでフーとロジャーのソロからのセレクトによるパートとなり、アンコールは行われなかった。
I Can See For Miles The Kids Are Alright, Behind Blue Eyes, Days Of Light, Going Mobile, Who Are You, I'm A Man,My Generation, Young Man Blues, Baba O'Riley, Without Your Love, Blue Red And Grey
I Can See For Milesは89年の大編成バンドのライブで感動した曲、やはり少ないバンドメンバーでは限界があったかもしれませんが、やってくれただけでうれしい。The Kids Are Alrightは2000年のツアーではロジャーとピートとの掛け合いが行われていた。もちろんそれは無かったが、日本語の上手なFrank Simesがギターをリッケンバッカーに持ち替え演奏してくれただけで満足。Behind Blue Eyesも涙腺攻撃ソングであるが、今回は途中にコーラスのみのパートがあり、少し違和感をおぼえた。Days Of Lightはロジャーのソロ作品より。weekendの喜びを書いた作品だそうで、ロジャーが熱心に紹介していた。ピート作中心の曲調とは明らかに違った、陽気さを感じる曲であったが、本人がとにかく楽しそうに歌っていたので、一緒に楽しみながら聞くことができた。Going Mobileも初めてライブで聴くことができた作品。原曲がフーズネクストだけに盛り上がりは十分、サイモンがピートに似た声で歌うので、まるで目を閉じているとピートのコンサートにいるかのような錯覚をおぼえる。それにしても何故ピートはこの曲をライブで演奏しないのか、不思議です。Who Are Youはシンセなしでのアレンジであったが、フーの音塊を再現しようと意識して演奏されていて、なかなかうまくいっていたと思う。I'm A Man,My Generationはメドレーでセレクトパートのハイライトだった。ブルースシンガーとして本人が自画自賛するロジャーの原点を見せてくれた気がする。Young Man Bluesは他のサイトでも評判の演奏。確かにすごかった。Frank SimesがSGにギターを持ち替え、ライブアットリーズ時期の演奏を手本としていると思う。曲と演奏のパワーが凄まじすぎる。ギターのコードがこれほどの迫力でせまってくるとは。ロジャーのマイク回しにあわせて、演奏が進められていくところが、ギャグのようで面白かった。当人も放り投げたマイクを持ったところで、スマイルでアピールしていました。今のピートがこの曲を演奏できないとは思わないが、何故かしない、何故なのか。オリジナルメンバーのライブアットリーズ時期の演奏を生で聞いたら、どれだけ吹っ飛んだか想像ができない。Baba O'Rileyでは本来ピートが歌うパートを全くロジャーが歌わず、マイクを客に向け、歌わせていた、通常この行為は私は気に入らないのだが、今回は非常にアットホームなライブで、許すことができた。許すというより、最善の選択だったかも。Without Your LoveはMcVicarのサウンドトラックに入ってた曲。当時アルバムを買って聞いていて、このアルバムはお気に入りでした。最初のフー関連の出会いがリストマニアのロジャーのボーカルで次がMcVicarだった記憶している。この曲はDays Of Lightの全く知らない曲ではないが記憶にはっきりしない。作曲のBilly Nicholls 89年のフーのライブにもコーラスとして参加していて、ピートの友人でもある。最後のひとつ前の曲を自身のソロナンバーで、しっとりときめてくれた。2曲演奏されたソロナンバーはフーナンバーと同様、満足できた。まだ多く演奏しても良かったかもしれない。そして最後の曲、Blue Red And Grey、以前からこの曲を聴くのを楽しみにしていました。フーのアルバムではあるがピートが歌っている作品。マンドリンを持ち、キーボートのみバックにつけ、演奏。これはピートの曲と決め付けていたが、ロジャーも良かった。次にフーのライブもしあれば、最後はtea & theaterではなく、この曲を二人で歌ってはどうでしょうか。
こうして2時間あまりのロジャーのライブは終了しました。フーのライブでは分からない、ロジャーの側面を見せてくれた。チケット売れ行きも芳しくなく、商売の話はしたくはないが、決して儲からないツアーであったはずなのに、会場で一番嬉しそうにしていた一人が、ロジャーだった。60年代ロンドンの不良少年達がザ・フーを結成し、成長して、成功して、リッチになって、それにも拘わらずそのバンドはリア充臭のしない不思議な腕白系プロフェッショナルバンドとして若いロックを好きな年代にも、今でもアピールしている(日本では現在の方がアピール度は、70年代、80年代よりも強いと思う)。その中核となっているのはピート・タウンゼントだけではなく、ロジャー・ダルトリーも同様でストイックで、ロックンロールを誰よりも知っていることをライブを見るたびに修正を余儀なくされています。
次はフーの再来日かピートのソロでの来日を4年後にならいうちに期待しましょうか?